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「北風と太陽?」
「……いや、いいよ」
アルドリックは、ほとんど無理やり話を切り上げた。あまりにきょとんとした顔をするので、毒気を抜かれたのである。
自分を見上げていたサイズの彼ならともかく、大きく育った天才魔術師に世の善悪を一から十まで教えたくない。
彼には、魔術師としての仕事に専念してもらおう。それで、対人関係のもろもろは、今後も自分が引き受けよう。アルドリックは決意を新たにした。
取り扱い注意の奇人認定を宮廷で受けていることは承知していたが、似た見解を抱かざるを得ない。やっぱり貧乏くじだったな、と思う。
ちらりと見やった横顔は、「氷のご麗人」の呼び名に相応しい無表情。だが、アルドリックは説明を省かれて拗ねたそれと知っていた。
――悪い子じゃないんだけどね、本当。……たぶん。
幼いころを知るよしみか、結局は擁護をしてしまうし、薬草部の面々には「迷惑をかけて申し訳ない」と保護者ぶりたい気持ちもある。
もっとも、この天才は、そのいずれも必要としていないのだろうけれど。明日の午後、改めてノイマン家に向かうことを約束させ、彼の住む塔に続く道を行く。
見る角度は変わったものの、少し不貞腐れた横顔は懐かしく、「まだ一緒に遊びたい」と嫌がる彼を宥めながら進んだ、幼い時分の帰り道のようだった。
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