エピソード1:眠り姫の毒

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【3】  エリアスの暮らす塔の周辺は、不思議と清涼な気配に満ちている。善悪問わず渦巻くさまざまな思惑から隔絶された場所だからだろうか。  塔を見上げたアルドリックは、初日とは意味合いの違う溜息を吐いた。  ――なんだかなぁ。  くしゃりと茶色の髪を掻きやったタイミングで、扉の開閉音が響く。アルドリックは慌てて笑顔をつくった。 「あ、時間ぴったりだね。魔術師殿」  長い銀色の髪と臙脂のローブ。魔術兵団に所属する魔術師たちのような大きな杖は所持しないものの――エリアスいわく、あんな大仰なものは有事の際に携帯するだけで十分なのだそうだ――、いかにも天才魔術師という雰囲気があった。  なんというか、何回見てもロマンがある。気を取り直してにこにこと眺めていると、エリアスが不審そうに眉を寄せた。 「どうした?」 「どうもしないよ。それより、今日もよろしくね」  改めてほほえみかけ、行こうか、と彼を誘う。 「進展があるといいんだけど。きみに、あまりリスクのあることはさせたくないし――、と。嫌だな」  歩き始めても不承不承の表情を崩さないエリアスに、アルドリックはしかたなく苦笑をこぼした。本当に、変なところばかり目敏くできている。
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