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――ノイマン家の令嬢のことを詳しく聞こうとしたら、どうにも様子が怪しくてな。死人が出るぞと脅したら、半泣きで吐きやがった。なにがお嬢様学校だ。一部と思いたいが、学内でとんでもないことをしてやがる。
昨日の残業中。アルドリックのもとを訪れたエミールの表情は、いつもの愛想を捨て去った険しいものだった。
彼の妹のニナ嬢いわく、「眠り姫の毒」を売っていた流しの魔術師が姿を消したあたりから、女学院の一部で類似品のやりとりが始まったのだそうだ。
小瓶の中身を粉末に変え、色とりどりの紙で包んだもの。お菓子のような見た目のそれを、彼女たちは「秘密のキャンディ」と呼ぶことにしたのだという。
――「眠り姫の毒」より安全な、お守りみたいなもの、という認識だったらしい。馬鹿としか言いようのない話だが、おおもとの伯爵令嬢いわく「安全」だそうだ。
面白半分で、お抱えの魔術師に作らせたらしい、とエミールが吐き捨てる。彼女たちにとっては遊びの延長でも、国家魔術師の彼からすれば、正しくとんでもないことだったのだろう。
秘密で、ほんの少し刺激的で、でも、危険のない遊び。そのはずだった前提は、ノイマン家の令嬢が目を覚まさなくなったという噂で崩れることになった。彼の妹が真っ青になったことも無理はない。
「眠り姫の毒」に関しても言えることだが、百ある薬のうち九十九が無害でも、残りひとつが劇薬である可能性は捨てきれない。グレーとは、そういうことだ。エミールは言う。
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