エピソード1:眠り姫の毒

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 * 「昨日はすみませんでした」    硬い表情のミアに向かって、驚かれましたよね、とアルドリックは声をかけた。  エミリア嬢は、昨日と同じ穏やかな表情で眠っている。ベッド脇の椅子から立ち上がろうとしたミアを留め、アルドリックももうひとつあった椅子に腰を下ろした。邪魔をするつもりはないという意思表示なのか、エリアスは少し離れた位置で壁に背を預けている。  彼なりの配慮と信頼と受け取って、アルドリックは静かに切り出した。 「あなたは一メイドと仰いましたが、お嬢様は随分と慕っていらっしゃったそうですね」 「そんなこと」 「実は、同僚の妹がお嬢様と同じ学校に通っているんです」  笑顔で否定をいなし、話を続ける。無理を言って時間をつくってもらい、午前中にニナ嬢に聞いたことだ。 「彼女に聞きました。お嬢様、親しいご友人に、あなたのことをうれしそうに話していらっしゃったそうですよ」 「お嬢様が……」 「あなたの名前を知っていたくらいです。本当によくお話しされていたのでしょうね」  少なくとも、ニナ嬢の目にそう映っていたことは事実だろう。  家のために決まった結婚を「しかたがない」と言いながらも、本心では嫌がっていたことも。学院を休む少し前から、思いつめた雰囲気があったということも。
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