エピソード1:眠り姫の毒

38/56

63人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「お嬢様にとってのあなたは、秘密を共有することのできる相手だったのでしょうね。メイドとお嬢様という関係ではなく、ミアさんとエミリア嬢という個人の関係で」  うつむいた彼女に、アルドリックは柔らかに問い重ねた。 「これは憶測の話になるので、あなたとお嬢様に失礼な表現があるかもしれません。その上でお聞きしたいのですが、思い合っている人物を呼ぶよう、エミリア嬢に頼まれていたのではないですか?」 「……」 「あなたが言ったように、自分が目を覚まさなければ、ご当主もその方法に賭けてくれるかもしれない。エミリア嬢は、そうお考えになったのではないですか。けれど、ご当主は招き入れることを良しとしなかった。だから、あなたは身動きが取れなくなったのでは」  やはり、彼女はなにも言わなかった。固く結ばれた唇が解けることを祈り、言葉を重ねていく。  見当違いのことを言い募っている可能性はある。だが、ミアを見る限り、過失があったとしても悪意はなかったのではないか、と。アルドリックは思うのだ。 「これも仮定の話なのですが、小瓶があると解毒薬の調合がすぐにできてしまう。そう考えて、あなたは隠したのではないですか。解毒薬の調合が叶わなければ、ご当主がお相手を招くことを許すと信じて」 「……違います」  震えるような細い声が否定を紡ぐ。おのれの手を見つめたまま、彼女はとうとう吐き出した。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加