エピソード1:眠り姫の毒

39/56

63人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「そんな方は存在しないのです。招き入れることのできるような方は。それに、私とお嬢様は本当にそんな関係ではないのです」 「ミアさん」 「お嬢様が特別に思っていた相手は私なんです」  予想だにしない告白に、こぼれかけた声を呑む。余計なことを一言でももらせば、続きを知ることは叶わない。そうわかったからだ。  心臓の音が届きそうな沈黙のあとで、彼女はそっと口を開いた。 「お嬢様がご結婚を嫌がっておられたことは事実です。けれど、それは、違う殿方を好いていただとか、そういうことではなく。私と特別でいてくださったからなんです。ただ、お嬢様に誓って明言いたしますが、いかがわしいことはひとつもしておりません」 「お互いに、心で思い合っておられたということですね」  本当に好き合っていたのであれば、触れたいと願うことも、それ以上を望むことも、いかがわしいとは思わない。だが、それは、アルドリックの考えだ。子爵家の令嬢の倫理観からすると、「いかがわしい」ことであったのだろう。  慮ったアルドリックに、彼女はうつむきを深くした。 「お嬢様がどうやって薬を手に入れたのかはわかりません。ただ、あの日、お帰りになったお嬢様は、薄桃色の紙に包んだ薬を持っておられました」    ニナ嬢の話にあった「秘密のキャンディ」だろうとアルドリックは想像をした。エミリア嬢はその薬を「眠り姫の毒」と説明したのだという。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加