エピソード1:眠り姫の毒

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「え?」 「そういう顔をするな」 「え? あぁ、……うん、ごめん」  もしかして、年甲斐もないと呆れたのだろうか。童顔の自覚はあったので、アルドリックは素直に謝った。  そのアルドリックを忌々しそうに見やり――そこまでの顔をされる覚えはなかったものの、幼馴染みの気難しさを承知しているアルドリックは、黙ったまま紅茶に口をつけた――、エリアスは再びきっぱりと言葉にした。 「俺がおまえに会いたかったんだ」 「……ありがとう?」  表情と台詞が乖離しているなぁと生ぬるい気持ちになりながら、曖昧にほほえむ。そうするほかなかったからだが、エリアスはますます苛立った顔をした。  美形だけに迫力はあったものの、おねしょをしていた時分を知る相手だ。さすがに怖くはない。 「好きだと言っている」  苦く言い切った顔が、本当に彼が幼かったころ。小学校に入学したばかりのアルドリックの家に上がり込み、「ここで暮らす」とごねにごね。ベッドを占拠したときとそっくり同じだったので、アルドリックはやんわりと笑みを浮かべ直した。 「ええと、そうだな。とりあえず、仕事の話をしようか。魔術師殿」  結論。大変残念なことに、エリアス・ヴォルフの奇人さ加減は年齢を重ねるごとに増していたらしい。
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