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言葉に詰まったアルドリックの前で、きれいに結った髪の隙間から、小さく折り畳んだ紙片を取り出す。彼女が広げた紙片の中にあったのは、話に聞いたとおりの薄桃色の包み紙だった。
心得たふうに近寄ったエリアスが包み紙を自身の手に乗せる。確認するように軽く鼻を寄せ、彼はひとつ頷いた。青い瞳がアルドリックを捉える。
「想起される調合と令嬢の症状に乖離はない。解毒薬を調合するために必要な材料も、宮廷の薬草部で揃うだろう。明日には目を覚ます」
はっきりとした台詞に、ほっと安堵を覚えたのも束の間。エリアスは、ミアに声をかけた。
「だが、構わないのか? 解毒をすれば、おまえが言ったとおりの元通りだ。この令嬢は豪商に嫁ぐことになる」
「ちょっと、きみ」
「構いません」
腰を浮かそうとしたアルドリックにかすかな笑みを向け、彼女はエリアスに向き直った。
「もとより過ぎた思いだったのです。婚姻が目前に迫ったお嬢様の激情に煽られ、お嬢様の大切な時間を無駄にしてしまいました。それだけのことです」
「それがおまえの決めた『そのあとどうしたいか』ということか」
「そのとおりです」
迷いのない力強い返事だった。にこりとミアがほほえむ。
「あたりまえのことと存じますが、旦那様にはどうご報告をいただいても構いません。お嬢様が目を覚ますまで屋敷を離れるつもりもございませんので、ご安心ください。お嬢様を、どうぞよろしくお願いいたします」
あまりの潔さに、なんだかこちらが躊躇いを覚えてしまいそうになる。視線を送れば、エリアスは小さく息を吐いた。
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