エピソード1:眠り姫の毒

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【4】  鹿の角、乾燥させたジキタリスの葉、希少竜の鱗。宮廷の薬草庫を我が物顔で物色するエリアスの背中を眺めたまま、アルドリックは溜息を吐いた。 「なんだ、どうした。ようやく解決するというわりに浮かない顔だな」 「エミール」  呆れ半分気遣い半分という声に、隣に視線を向ける。鍵さえ開けば案内不要を体現するエリアスにより、彼は時間を持て余しているのだ。 「例のメイドが所持していたんだろう? 小瓶ではなく包み紙だったというが」 「そうなんだよ。今度、ニナちゃんにも改めてお礼をしないと」  苦笑まじりに応じたアルドリックに、多少の灸は据えてやれ、とエミールは眉を上げた。その調子のまま、やれやれと壁に背中をつける。 「うちの上長など、完全に及び腰になっている。女学院への確認は、ノイマン家の一件が終わり次第、と言い出す始末だ。なにもなかったことにしたいのだろうな。学院側も上っ面の注意喚起で終わりだろう」  少女特有の好奇心で少しばかりグレーの薬が流行った事実は認めましょう。けれど、誰にも危害は及ばなかった。だから、すべてはうちうちに。それがお互いのためでしょう。  いかにもな台詞が頭に浮かび、そっと目を伏せる。 「まぁ、でも、ニナちゃんは、きみから十分お叱りを受けたわけだろう? ニナちゃんが打ち明けてくれて助かったことは事実だからね。ノイマン家の一件が終わったら、僕はお礼を伝えることにするよ。なにかお菓子でも持っていこうかな」
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