エピソード1:眠り姫の毒

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「ごめん。なに、どうしたの?」 「喋っている暇があったら、これでも持っていろ」  宮廷が俺に押しつけた案件だろう、と続いたエリアスの声音は、気のせいどころではなく嫌そうだった。  ごめん、ごめん、ともう一度謝って、乾燥ハーブの入ったガラス瓶を受け取る。だが、自分が受け取ってよいものだったのだろうか。おこぼれ的に許可を頂戴しただけの、国家魔術師しか入室することのできない場所である。 「というか、これ、僕が持ってよかったの?」 「あ、じゃあ、俺が持ちましょうか? 一級魔術師殿」 「図体のでかい男が狭い通路に並ぶな。邪魔だ」 「えぇ、……いろんな意味でどうなの、それ」  年次で言えば、エミールのほうが先輩だろうに。まぁ、通路が狭いことも、自分の身長がこの中で一番低いことも事実ではあるけれど。  ……いや、でも、このふたりが平均以上に高いだけで、僕は平均だと思うけどなぁ。  チビ扱いを受けたことは遺憾だが、口に出すと面倒なことになりかねない。曖昧な微笑で文句を呑み込み、瓶を選ぶエリアスの横顔を窺う。と、青い瞳が動いた。 「なんだ?」 「ああ、いや、ごめん。なんでもないよ。手伝うから、どうぞ、続けて」  その一言で、あっさりと視線が棚に戻る。ひとつ増えた瓶を抱えながら、アルドリックは、エリアスの言を思い返していた。  ――なんで、エリアスは、ミアさんが決めたことかって確認したんだろう。  もし、彼女が「違う」と言えば、――本当はお嬢様を目覚めさせたくないのだ、と。結婚してほしくないのだ、と。打ち明けたとすれば、この子はどうするつもりでいたのだろう。
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