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エリアス・ヴォルフは天才だ。だが、天才ゆえに、凡人を傷つけることがある。良くも悪くも、本人に悪意はないのだろうけれど。
メルブルク王国は、十になる年に魔力を測定する検査がある。魔力を持つ子どもは十人にひとり。その中のさらにごく少数の天才が、魔術学院に進学する資格を得る。
魔術師に憧れていたアルドリックは、ほんの少しでも魔力があれば、夢を叶える努力を続けようと決めていた。けれど、ほんのひとかけらの魔力も自分にはなかったのだ。
――十年以上前に割り切ったはずだったのになぁ。
エリアスが悪いわけではないし、宮廷の文官として働く今に十分に満足しているつもりだ。
そのはずでいるのに、彼の顔を見ると、幼い劣等感が擽られてしまう。だから、何年も会おうとしなかった。連絡を取ることもしなかった。連絡が来ることもなかったから、彼にとっての自分はその程度なのだと思っていた。
――それなのに、なんで僕の名前なんて出すかな、きみは。
おかげで、みっともない感情を思い出してしまったではないか。
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