エピソード1:眠り姫の毒

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【1】 「ところで、きみは『眠り姫の毒』を知っている?」  不承不承のエリアスに預かった封筒を渡し、アルドリックは本題を切り出した。自分を厄介ごとに巻き込んだそもそもの要因である。  返事はなかったものの、構わず説明を開始していく。聞き届けてもらわないことには、宮廷に戻ることも叶わないのだ。 「早い話が、王都で流行ってる薬なんだけど――」  その名も「眠り姫の毒」。王都の若者たちのあいだで流行する薬の俗称である。薬を飲むと深い眠りに落ち、なにをしても目を覚ますことはないのだという。ただひとつ、真に思い合う者からの口づけを除いては。  噂の火付け役を担ったのは、流しの魔術師から薬を買った商家の娘のエピソードだ。主人公は、親に縁談を勧められ、思い悩む娘。引っ込み思案で意思を伝えることが苦手だった娘は、密かに思い合う幼馴染みの存在を打ち明けることができなかったのだ。その彼女が出会ったのが、怪しい流しの魔術師である。  メルブルク王国において、煎じた薬草を販売する資格を持つのは国家魔術師が営む認定店だけ。だが、法をかいくぐるかたちで販売されるものもあった。  心身に著しい害の出る恐れがあるものは即座に取り締まりの対象になるものの、心身に害の出ない――ある一定の基準より薬草の保有量の少ないもの。つまり、気の持ちよう程度の効能しかないもの――は目こぼしをされることがあるのだ。
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