エピソード1:眠り姫の毒

52/56

61人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
「なんだ?」 「なんというか、見た目より随分と情熱的なんだなと思って。きみに愛される女の子は大変だろうね。まぁ、きみなら選り取り見取りだろうけれど」 「おまえのことを言っているのか?」 「え?」  瞳を瞬かせたアルドリックに、真面目な顔のままエリアスは言い募った。 「俺はおまえを好きだと言ったつもりだったが」 「ええ……と」  メルブルク王国に同性愛を禁じる法はない。だが、あくまでも主流は異性愛である。あの令嬢たちが、公にすることを選ばなかっただろう理由のひとつ。  ――まぁ、もちろん、身分差とか、家の存続の問題とか、ほかにも理由はあっただろうけど。  そういうふうに思い悩んであたりまえの関係ということだ。でも、この子にとっては、どうでもいいことなんだろうな。  わかってしまったアルドリックは、恐る恐る問いかけた。 「きみ、もしかして、本気で言ってるの、それ」 「本気じゃなかったら、なんだと思っていたんだ」 「いや、嫌がらせの一種かと」 「俺がおまえに? なぜ」 「なぜって、それは、その……」 「その?」  ふたつも下の幼馴染みに八つ当たりをした挙句、避けるように勉強に打ち込んで村を出たこと、なんて。できればあまり言葉にしたくない。  おまけに、当事者の一方が微塵も気にしていない態度なのだから、なおさらだ。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加