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「アルドリック?」
窺う呼びかけに、アルドリックはゆっくりと顔を上げた。大人になった幼馴染みを見上げ、笑いかける。
「ねぇ、魔術師殿。きみはまだ甘いものが好き?」
今度目を丸くしたのは、エリアスのほうだった。わずかな間を挟んで、銀色の髪が揺れる。
「甘いものが好きと言ったことがあったか?」
「言わなかったけど、わかるよ。きみ、いつも、おばあちゃんのビスケットをうれしそうに食べていたじゃないか」
実家にあった古びた温かなテーブル。自分の隣に座って、大事にビスケットをかじっていたまろい頬を思い出す。表情の出ない子どもだったけれど、そのくらいのことはわかる距離にいたのだ。
妬ましくもかわいい、アルドリックの小さな幼馴染み。今なら、それだけではない関係を築くことが叶うのだろうか。仕事仲間として、対等な友人として。――彼のいう「好き」とやらは、よくわからないけれど。
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