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「よかったら、食べにいかないかな。その、もし、よかったらなんだけど。せっかくこれから一緒に仕事をすることになるんだし」
ノイマン家の一件は試金石だったのだ。変わり者と評判の若き一級魔術師が、宮廷の依頼を正しく処理するか、どうか。
無事に任務完了の報告が叶いそうで、アルドリックはほっとしている。大きなお世話と承知していても、聞き及ぶ噂で彼の不器用を案じていたからだ。
罪悪感と劣等感で貧乏くじを引いたと感じたし、どうして自分の名前を出したのだと呆れもした。そのすべてが本当だ。だが、昔馴染みとして力になりたいと思ったことも本当なのだ。
まったく、どうして、この子に対する思いは相反するのだろう。
「改めて、これからよろしく。魔術師殿」
差し出した右手に、エリアスが手を重ねる。イメージと異なる体温の高さが懐かしく、アルドリックはほほえんだ。
エリアスと触れ合うのは、たぶん、六年ぶりだ。ひとりになった自分を不器用ながら慰めてくれた、あの夜以来。
青い瞳を見つめ、自身に言い聞かせるようにアルドリックは言った。
「たぶんだけど、きみにまた会えてよかったんだと思う」
「なんだ、その、たぶん、だとか、思う、だとか。ぼんやりとした言葉は」
情緒もへったくれもない素直な感想に、はは、と苦笑をこぼす。そういうところが、好きで嫌いだった。
でも、もう一度会わなかったら、好きだったことを忘れていたかもしれない。苦手という一面だけが記憶に残ったままになったかもしれない。だから。
「そういうことだよ」
不満そうなエリアスから手を離し、「どこか行きたい店はある?」と問いかける。彼と再会してから一番心が平らかな、春の夕暮れのことだった。
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