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「お人好しもそこまで来ると病気だな。雑用なら見習いに任せたらいいだろうに」
「いやぁ」
その見習いと間違われている可能性は、あまり明かしたくはない。
「まぁ、本当に急ぎの用事があったらきちんと断るし。そうじゃなかったら構わないよ。誰かがやる必要のある仕事だからね。でも、きみを付き合わせることは忍びないな。薬草部の中で待たせてもらう?」
「必要ない」
よかれと思った提案を、エリアスはきっぱりと取り下げた。
「おまえの必要な仕事は俺の世話だろう」
「……まぁ、それはそうなんだけど」
あいかわらずきみは偉そうだね、という台詞はもごもごと口の中で呟く。一級魔術師だから偉そうというわけでなく、アルドリックの腰ほどの背丈だったころから常に偉そうなのだが。
「じゃあ、ついてくる? 庶務に行くだけなんだけど」
「ああ」
「まぁ、ちょうど良い機会なのかな。きみ、ほとんど宮廷に顔を出さないだろう。これからは来ることも増えるだろうし、内部の地理に明るくなってもいいのかもしれないね」
「おまえが毎度案内をすればいいだろう」
なにを言っているんだとばかりの澄んだ瞳に、アルドリックは再三の愛想笑いを浮かべた。意味もなく書類を抱え直す。
それは、まぁ、特別チームの仕事であれば、自分が案内をすればいいと思うが、そうでない場合もあるだろうに。
――なんというか、薬草部の上長、この子にもっと宮廷に来てほしそうだったんだよなぁ。
薬草部に籍を置いてほしいと考えているのかもしれない。この子が頷くとは思えないけどなぁ、と。苦笑いの気分で、アルドリックは話を変えた。同僚の女性からちらりと聞いた世間話である。
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