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「そういえば、今度は惚れ薬が流行ってるらしいよ」
「どいつもこいつも懲りないな」
「まぁ、それは、ほら、ロマンというか。……いや、僕は、グレーのものに手を出すのはよくないと思うけどね」
話題の転換に失敗した予感しかしない。はは、と三度の笑みを刻む。
「ええと、ほら、あそこに書庫のプレートが出てるだろう? 地下には魔術書の蔵書があるんだ。きみが利用することもあるかもしれないね。――と、ああ、クレイさん」
「アルドリックさん」
廊下で行き会ったクレイに声をかけると、彼女はにこりと立ち止まった。クレイ・アーバン。見目良し、性格良しのアルドリックが所属する文書課のマドンナである。
こんにちは、とエリアスにも頭を下げたクレイが、ひとつに結った金色の髪を揺らす。
「薬草部での顔合わせが終わり次第、お休みを取ると言ってらっしゃったのに。さては、またお仕事を頼まれたんでしょう」
軽く揶揄う調子に、アルドリックも同調した。
「そう、そう。財務のヴァルターさんに庶務に持っていくよう頼まれちゃってね。渡したら帰るつもりだけど」
「代わりますよ。ちょうどそちらのほうに行くところでしたから」
「え、でも」
悪いよ、と断ったのだが、クレイは笑って書類に手を伸ばした。
「アルドリックさんにはいつも助けてもらってますから。魔術師殿をお待たせするわけにもいきませんでしょう?」
「……じゃあ、お願いしようかな。誰に渡してもいいという話だったので。すみませんが、よろしくお願いします」
「任せてください。では」
良いお休みを、と。朗らかに手を振ったクレイに、いい子だなぁと頬を緩ませる。恋愛感情の好きではないのだが、なんというか日々の癒しなのだ。
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