エピソード2:人魚姫の涙

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「そういえば、今度は惚れ薬が流行ってるらしいよ」 「どいつもこいつも懲りないな」 「まぁ、それは、ほら、ロマンというか。……いや、僕は、グレーのものに手を出すのはよくないと思うけどね」  話題の転換に失敗した予感しかしない。はは、と三度の笑みを刻む。 「ええと、ほら、あそこに書庫のプレートが出てるだろう? 地下には魔術書の蔵書があるんだ。きみが利用することもあるかもしれないね。――と、ああ、クレイさん」 「アルドリックさん」  廊下で行き会ったクレイに声をかけると、彼女はにこりと立ち止まった。クレイ・アーバン。見目良し、性格良しのアルドリックが所属する文書課のマドンナである。  こんにちは、とエリアスにも頭を下げたクレイが、ひとつに結った金色の髪を揺らす。 「薬草部での顔合わせが終わり次第、お休みを取ると言ってらっしゃったのに。さては、またお仕事を頼まれたんでしょう」  軽く揶揄う調子に、アルドリックも同調した。 「そう、そう。財務のヴァルターさんに庶務に持っていくよう頼まれちゃってね。渡したら帰るつもりだけど」 「代わりますよ。ちょうどそちらのほうに行くところでしたから」 「え、でも」  悪いよ、と断ったのだが、クレイは笑って書類に手を伸ばした。 「アルドリックさんにはいつも助けてもらってますから。魔術師殿をお待たせするわけにもいきませんでしょう?」 「……じゃあ、お願いしようかな。誰に渡してもいいという話だったので。すみませんが、よろしくお願いします」 「任せてください。では」  良いお休みを、と。朗らかに手を振ったクレイに、いい子だなぁと頬を緩ませる。恋愛感情の好きではないのだが、なんというか日々の癒しなのだ。
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