61人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
「あれ?」
じゃあ、行こうか、と声をかけようとしたところで、アルドリックは足元の小瓶に気がついた。靴の先に当たって止まったらしいそれを、ひょいと拾い上げる。薄桃色の液体が入った、人差し指ほどの大きさの小さなボトル。
「香水? クレイさんのかな」
アルドリックの呟きに、エリアスが手元を覗き込んだ。視界に細い銀色が過る。
「それだ」
「え?」
「おまえの言う『王都で流行っているもの』かどうかは知らんが、それは惚れ薬だぞ」
「ええ!?」
取り落としそうになってしまい、アルドリックは慌てて掴み直した。あのクレイさんが。みんなの憧れの、自分の癒しの、かわいくて優しい働き者のクレイさんが。
「誰に使うつもりだったんだろ……」
小瓶を見つめたまま呆然とひとりごちれば、エリアスが柳眉を上げる。
「使われたかったのか?」
「ええ、いや、そういうわけじゃないけど。そもそも、相手の同意なしに使用することは褒められた行為では……」
それを、あのクレイさんがなぁ、と驚いただけで。もごもごと言い訳を転がしたものの、好奇心に負けてアルドリックは問いかけた。
「惚れ薬って本当に効果があるものなの?」
「あると言えばある」
「あ、そうなんだ。本当に」
へぇ、と再び瓶を眺める。
――そう聞くと、途端にこのピンクが怪しく見えてくるなぁ。
拾ったときは、彼女に似合いのかわいい香水瓶と思ったというのに。人間の思考とは、かくも単純なものである。
最初のコメントを投稿しよう!