エピソード2:人魚姫の涙

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「あれ?」  じゃあ、行こうか、と声をかけようとしたところで、アルドリックは足元の小瓶に気がついた。靴の先に当たって止まったらしいそれを、ひょいと拾い上げる。薄桃色の液体が入った、人差し指ほどの大きさの小さなボトル。 「香水? クレイさんのかな」  アルドリックの呟きに、エリアスが手元を覗き込んだ。視界に細い銀色が過る。 「それだ」 「え?」 「おまえの言う『王都で流行っているもの』かどうかは知らんが、それは惚れ薬だぞ」 「ええ!?」  取り落としそうになってしまい、アルドリックは慌てて掴み直した。あのクレイさんが。みんなの憧れの、自分の癒しの、かわいくて優しい働き者のクレイさんが。 「誰に使うつもりだったんだろ……」  小瓶を見つめたまま呆然とひとりごちれば、エリアスが柳眉を上げる。 「使われたかったのか?」 「ええ、いや、そういうわけじゃないけど。そもそも、相手の同意なしに使用することは褒められた行為では……」  それを、あのクレイさんがなぁ、と驚いただけで。もごもごと言い訳を転がしたものの、好奇心に負けてアルドリックは問いかけた。 「惚れ薬って本当に効果があるものなの?」 「あると言えばある」 「あ、そうなんだ。本当に」  へぇ、と再び瓶を眺める。  ――そう聞くと、途端にこのピンクが怪しく見えてくるなぁ。  拾ったときは、彼女に似合いのかわいい香水瓶と思ったというのに。人間の思考とは、かくも単純なものである。
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