エピソード2:人魚姫の涙

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「惚れ薬と総称されるものの効能は詳細に分かれていて、ほとんど思い込みだろうと眉を顰めたくなるものも多いわけだが」 「思い込み?」 「身体的な反応を引き出して、恋心と誤認させているということだ」 「というと」  原理がわからず、アルドリックは問い重ねた。魔術書に触れる機会など滅多とない身なので、単純に興味がある。  考えるような間を挟み、エリアスは説明を始めた。 「たとえば、そうだな。惚れ薬を飲んだ直後に目の合った人間を好きになるという話は、効能として有名だろう」 「たしかに、惚れ薬のイメージってそれだよね。聞いたことがあるよ」 「薬効によって心拍数が上昇し、思考がぼんやりし始めたところに、ここぞと手でも握ってほほえまれてみろ。好みの顔でなくとも、身体反応を恋と認識する人間はいるだろう」 「ええ、そんな」  夢もへったくれもないと顔を引きつらせる。惚れ薬で相手の心を変えようと画策した時点で、夢もへったくれもないのかもしれないが。 「どちらにしろ、露店で売られているようなものはほとんどが粗悪品だろう」 「そっかぁ」  そうだよね、と相槌を打って、アルドリックは肩を落とした。  ノイマン家の件で釘を刺されたとおりで、魔術のことを「なんでも都合良く願いを叶えてくれるもの」と思っているわけではない。だが、どうしてもロマンを感じてしまうのだ。幼いころに、魔術師の活躍する物語を読みすぎたせいかもしれない。  落胆した態度が気に障ったのか、エリアスが意地の悪い笑みを見せた。
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