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「惚れ薬と総称されるものの効能は詳細に分かれていて、ほとんど思い込みだろうと眉を顰めたくなるものも多いわけだが」
「思い込み?」
「身体的な反応を引き出して、恋心と誤認させているということだ」
「というと」
原理がわからず、アルドリックは問い重ねた。魔術書に触れる機会など滅多とない身なので、単純に興味がある。
考えるような間を挟み、エリアスは説明を始めた。
「たとえば、そうだな。惚れ薬を飲んだ直後に目の合った人間を好きになるという話は、効能として有名だろう」
「たしかに、惚れ薬のイメージってそれだよね。聞いたことがあるよ」
「薬効によって心拍数が上昇し、思考がぼんやりし始めたところに、ここぞと手でも握ってほほえまれてみろ。好みの顔でなくとも、身体反応を恋と認識する人間はいるだろう」
「ええ、そんな」
夢もへったくれもないと顔を引きつらせる。惚れ薬で相手の心を変えようと画策した時点で、夢もへったくれもないのかもしれないが。
「どちらにしろ、露店で売られているようなものはほとんどが粗悪品だろう」
「そっかぁ」
そうだよね、と相槌を打って、アルドリックは肩を落とした。
ノイマン家の件で釘を刺されたとおりで、魔術のことを「なんでも都合良く願いを叶えてくれるもの」と思っているわけではない。だが、どうしてもロマンを感じてしまうのだ。幼いころに、魔術師の活躍する物語を読みすぎたせいかもしれない。
落胆した態度が気に障ったのか、エリアスが意地の悪い笑みを見せた。
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