エピソード2:人魚姫の涙

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「より質の悪いものもあるぞ」 「質の悪いもの?」 「心拍数の上昇などより、もっと手っ取り早く相手を好きと誤認させる器官があるだろう」 「え?」 「生殖器だ」 「ごめん。……うん、よくわかった。もういいよ」 「気をつけたほうがいい。粗悪品であればあるほど、予想外の効果が生じる可能性があるからな」  正しい忠告に溜息を呑み、拾った小瓶を胸ポケットにしまい込む。クレイのものでない可能性もあるが、確認したほうがいいだろう。 「きみと話していると、魔術師に対して抱いていた夢が溶けていく気がするよ」 「それはなによりだ。ろくなものじゃない」  それもまた、意地の悪い笑い方だった。まったく、なにがそこまで気に入らないのだか。ほんの少し内心で呆れつつ、アルドリックは笑いかけた。 「とにかく、クレイさんに返しに行かないと。きみはどうする? なんだったら、やっぱり、どこかで待っていてくれても――」 「ついていく」 「え?」 「おまえが言ったんだろう。宮廷に顔を出せば、このあいだ言っていた店に連れていってやると」 「ははは、ああ、言ったねぇ」  きみが辞令を受け取りに宮廷に行くことを嫌がったから、小さい子どもを甘味で釣って病院に連れ込む心地だったんだけどね、との本心も当然と呑み込む。  それにしても、と。改めて庶務に向かいながら、アルドリックはエリアスの横顔を窺った。なんというか、ここまで来ると、大変な潔さである。子ども扱いとは露とも思っていないのかもしれない。  それでおとなしくしてくれるのであれば、べつに、まぁ、構わないのだけれど。
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