エピソード2:人魚姫の涙

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【2】 「え、クレイさん。もう帰ったんだ。なんですれ違わなかったんだろう」  文書課に戻るなら、来る道ですれ違っただろうに。頭を捻ったアルドリックに、庶務課の同期が事務処理の手を止める。 「次は総務と言っていたから、そっちに向かったんじゃないかな?」 「なるほど。じゃあ、そっちに行ってみようかな」 「またすれ違わないといいけど。あの子、パタパタとよく働くから」 「そうなんだよね。早く行ってみるよ、ありがとう」  よその課でもさすがの好感度だ。  すごいなぁと感心しつつ、踵を返そうとしたのだが。興味津々と引き留められてしまった。 「どうかした?」 「いや、あれって、例の氷のご麗人だよね?」 「きみまでその呼び方なの」  庶務課の入り口を塞ぐ位置で堂々と腕を組むエリアスを見やり、弱った笑みを浮かべる。ついてくると言い張ったわりに、課内に入ることを拒んだ結果である。 「エリアス・ヴォルフ一級魔術師殿だよ。今ちょうど一緒に仕事をしていて」 「仕事を?」  おまえと? と言わんばかりの空気に、アルドリックはもう一度眉を下げた。  それは、まぁ、稀代の天才魔術師と自分が仕事と聞けば、そんな顔にもなるだろう。だが、しかし。
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