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「クレイちゃん、付き合ってる相手はいないって話だったよな?」
「さぁ、どうだろう。あまり聞いたことはないけど」
内ポケットに入った惚れ薬を意識したせいで、妙に上ずった声になってしまった。誤魔化すように笑ったアルドリックに、そわそわと相手が問い重ねる。
「じゃあさ、クレイちゃんの好きなタイプって知らないか?」
「ええ。どうかなぁ。彼女、誰にでも親切だから」
「ああ、あのバナードさんにも親切というものな」
さすがクレイちゃんとばかりの態度で、うんうんと彼が頷く。
バナードというのは、よく言えば有能でクール。悪く言えば自他ともに厳しすぎるきらいのある、アルドリックと同じ課の先輩のことだ。飲み会にも顔を出さないので、若い女の子に遠巻きにされがちなのである。
アルドリック個人の認識で言えば、良い人だと思うのだけれど。
――さすがと言えばそれまでだけど、たしかにクレイさん、バナードさんにもよく話しかけているものな。
とは言え、緊張はするのか、どぎまぎとしている場面を見た覚えがある。そうだね、と無難な相槌を打ったアルドリックに、彼は恋の吐息を吐いた。
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