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「張本人が国を出た以上、さらなる模造品が出回る可能性はあれど、とりあえずは落ち着くだろうということで、一旦保留になったんだけど。とうとうと言うべきか、目を覚まさないご令嬢が現れてしまって」
「ご令嬢?」
そこでようやくエリアスは反応を見せた。
「真に思い合っている相手に口づけてもらえばいいのではないか?」
「いや、それが」
貴族と関わることはごめんだと言わんばかりの調子に、情けなく眉を垂らす。
貴族を嫌がる人間の多さは承知しているし、宮廷で働く身としても、貴族特有の面倒さ――もちろん、すべての人が面倒なわけではないけれど――は実感している。だが、断られると困るのだ。
「ええと、その、目が覚めないのはノイマン家のお嬢様なんだけど、ご当主いわく、娘がそんな怪しい薬に手を出すわけがない、とのことで」
「なるほど?」
「ただ、ちょっと、こっちの調査で向こうの使用人の方にお聞きしたところ、お嬢様が飲んだ薬は王都で噂の『眠り姫の毒』だという証言が出て」
「なるほど?」
嫌味ったらしい相槌に負けじと、アルドリックは人当たりが良いと評判の笑みを返した。
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