エピソード1:眠り姫の毒

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「ノイマン家か」 「ああ、知って?」 「家の名前くらいはな。個人的に知っているという間柄ではない」  だろうねぇ、とも、そのほうがいい気がするよ、とも言えず、アルドリックは頷いた。 「とにかく。ご当主から直々に宮廷に要請があってね。なんでも、ご令嬢の縁談が進んでいるさなかのことだったそうで、街で噂の『眠り姫の毒』が原因とはまかり間違っても誤解されたくないということなんだ」  伝え聞いた当主の口ぶりは、一人娘の状態より家の醜聞を気にしたものだったが、一介の文官が口を挟む話ではない。 「なるほど?」  アルドリックを見つめ、エリアスは意地悪く笑った。 「起死回生の頼みの綱である婚約者殿には知られたくないだろうな。口づけで眠りが覚めなければ、大ごとだ」 「ちょっと」  人の目がない場所と言えど、言葉がすぎる。昔馴染みのよしみとして、アルドリックは窘めた。  子爵であるノイマン家と一級魔術師のエリアスのどちらの格が上かとなると後者であろうが、そういう問題ではない。
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