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5.ルアルと精霊王様
「滅多にあっちでも私達の前に姿を表さない、大事な弟がご執心のかわい子ちゃんを見てみたいと思ってね。で、そんなに美味しいのかい?」
「見るな。興味を持つな。帰れ」
「独占欲可愛い……ルアルが可愛い……」
眼の前で繰り広げられるやり取りよりも、僕は、ルアルの向き合っているそのヒトが……精霊王様であることに頭の中がぐるぐるする。
人間の世界で太陽神が最高神であるように、僕らの世界では太陽の光の精霊は最上位の精霊王だ。精霊王様は暖かい慈しむ光と焼き尽くす業火の力を持っている。僕ら植物の精霊にとっては敬わずにはいられない存在。いつも遠くから暖かく照らしてくれる大好きな存在。当たり前だけど僕はこんな近くで会ったことなんてない。
そんな精霊王様がなんでこんなところに……。
「帰れ、今すぐ」
精霊王様にルアルがあんなぞんざいな口を利いてあまつさえ蹴りを入れている。眼の前でやめてよ。精霊王様の怒りに触れるんじゃないかって気が気じゃない……。
待って、さっきルアルと精霊王様はなんて言った……兄? 弟?
「ねえ、林檎の君? 私にもひとつくれないかい?」
「話を聞け!」
ルアルは嫌がってる……けど、精霊王様に言われて拒否できるほど僕の心は強くない……。サワサワと枝を揺らしてひとつ実を落とすと精霊王様は微笑んで受け取った。ルアルは睨んでいたけど……。
「それは俺んだ。ふざけんな」
「ルアル、これは林檎の君が直接くれたものなんだから私にも食べる権利はあるだろう? もちろん、こっちの実だけだよ」
ルアルと違ってがっしりとした大きな体格の精霊王様は、彼の蹴りも攻撃もなんのそのでひょいひょいと躱したり受け止めつつルアルに逆に抱きつこうとしたりで何も気にしていないみたいだ。流石の器のデカさというのかそれともルアルへの愛が強いのか……。
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