7.僕の名前

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「あ、の……」 「あー……」    僕らは二人で同時に喋りだして一緒に口を閉ざす。それがなんだか気が合ってるみたいで変に嬉しくて、僕はルアルの首に飛びついた。   「お、おい」 「ルアル……大好き。こんな夜に会えるなんて僕、思ってなかった」 「あ、アーフェル……」    精霊王様に付けてもらった名前は、ルアルに呼ばれた途端に僕にとって特別なものになった。  どうしようどうしよう。夜なのに世界がキラキラして見える。夜に動けることも初めての経験だ。すごい! こんなことってあるんだね。    僕はキョロキョロしながら落ち着かなかったけど、ルアルに手を引かれて屋敷の中に入っていった。確かに窓からは明るい月の光が部屋に差し込んでいて、昼に見た時は曇ってボロボロの姿見だったはずの鏡がチカチカと光を放っていた。   「あの鏡!? すごい!」    僕が感動して声を上げるとルアルは前みたいにくくっと喉を鳴らした。   「素直で可愛いな……お前は。ずっと変わらない。だから見てたんだ……」 「ん?」 「ソゥ兄が言ってたこと、気にしてただろ? 俺が……追いかけ回してたとか」 「あっ………………それは、うん」    そうして僕が聞いたのは、昔、白昼の残月の弱い弱い光で、世界をぼーっと眺めながら彷徨っているときに見つけたとある林檎の話。まだ実もつけられないような幼木の……って、ええっ!?  ルアルがやさぐれてた時期に、たまたま見た僕があまりにも純粋で素朴で癒やされるなとか思って、それからちょいちょい来ては密かに見ていたって……うそ……。   「最初はすさんだ気持ちが癒えるなと思って見るようになったんだけどな。いつの間にかどんどん惹かれてく自分がわかった。それからはかなり根回ししまくってたし、悪い虫が寄らないようにはしてたな……」    そう言うルアルは片方の口角だけ上げた悪そうな笑顔を浮かべてて、僕はさっと見なかったことにした。  うん、何もなかった何も見なかった。僕、小さい頃から病気も虫食いもなかったけど……そ、そういうことじゃ……ないよねぇ?  
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