1.憧れの君

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 僕みたいな林檎の木なんて誰も気にしてないからね……そもそも僕が植わってることも気づいているのかいないのか。そのおかげでこうやってとってもいい場所に移動できたから構わないんだけど。    毎晩ドキドキしながら窓を見つめて──憧れの君を見ることができなくてガッカリすることのほうが多いけど──たまに姿が見られると本当に舞い上がってしまうくらい嬉しい。    彼が何者なのかも知らないし、顔しか知らないのにこんなのおかしいよね。でも見るだけでほわぁ……ってなっちゃうくらい『美しい』って言葉が似合うヒトなんだ。  本当に僕は見られるだけで満足だし、これって僕らが精霊王様を尊敬して大好きって思う気持ちに近いんじゃないかなと思う。こんなこと言ったら精霊王様に怒られちゃうかな……。    もう何年もこうやって憧れの君を見つめ続けてるなんて恥ずかしいけど、幸いなことに夜の僕は林檎の木の姿だから、見つめていることはきっと彼には気づかれてない。だから僕は思う存分見ていられるんだ。    ◇◇◇    季節は秋から冬になりかけている。  最近はあっという間に陽が落ちてしまう。いつものように屋敷の中を探索した僕は、オレンジ色に染まりだした空を眺めながら庭を歩いていた。   「今日も憧れの君の収穫はなしかぁ……」    いつも彼が立っている窓辺の部屋には実はもう何度も行っている。きっともともとは手入れが行き届いていた屋敷の主人の部屋とかだったんだろうと思われる部屋。今は蜘蛛の巣が張ってるし、調度品が打ち捨てられているようなところだけど。    彼はなんでいつもあの部屋の窓から外を見ているのだろう。あそこにしか現れないということはきっとあの部屋にヒントがありそうなのに……なんて考えながら僕の本体のあるところへ向かって歩く。  そうして歩く僕の視線の先にいたのは……。   「どこに行っていた」    夕陽に照らされたプラチナブロンドがキラキラとオレンジに輝いてなびいていた。  そこだけまるで切り離された別世界みたいだ。    彼は……。    今まで何年もなかったのだから今更お互いがヒトの姿で出会うことなんてないと思っていたのに。    なんで……。   ********** 以降、明日から基本6時18時で更新します。 1話3分割になったときは12時にも更新入れました。 7/25に完結します。
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