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11.月夜の林檎は甘く色づく
『この林檎が今まで食べたことがないくらい美味いんだ』
『こんなところに林檎あったっけ』
『あったあった。でも前はもっと酸っぱかったんだよ。小ぶりだったし料理にも使えねぇなって放置してたの。それがさぁ……こないだ夜たまたま剪定具を忘れて裏を通ったら月明かりでピッカピカに光っててよぉ』
『酔ってたんだろ、お前』
『ちげぇし。お前も食ってみろっての。目ん玉飛び出るぞ』
人間が僕の木の周りで騒いでいた。ええっと? なんか、注目されてる?
そしたらその後から日に日に人間が増えていって……気づいたら僕の木の周りは豪華な柵が設置されて、なんか偉そうな人間がめちゃくちゃ来るようになってた。
「なに……あれ?」
「人間たちの中で、アーフェルの林檎は特別なものに認定されたみたいだぞ」
「僕は何もしてないよ?」
「ばーか」
少しだけ目元を紅くしたルアルがそっぽ向いて言う。絶対に何か知ってそうなのに僕には教えてくれない。
それにしても、これじゃあ僕の木とはいえ落ち着かないや。今じゃルアルの居室にいることが多いから、そこまで問題はないんだけど。人間が多いところで生活してる精霊っていつもこんなに落ち着かないのかな……慣れるもんなのかなぁ。
「ずっと俺のとこにいればいいだけだろ。それともあっちがいい……とか?」
ルアルからじっとりした気配がにじみ出してきたから急いで否定した。ルアルの隣が一番に決まってる。でも長年過ごしたところだから気になるだけだよ。だってついこの間まであっちが僕の本体だったんだから。
『この林檎を増やすことはできないのか?』
『いや……この林檎の木が特別なんですよ。祝福の林檎です。正直、教会としても譲っていただきたいくらいで……』
『王室からも打診があるのにそれは無理な話だな』
『月の力が満ちてるとかなんとか……』
『精霊士はそう言ってるんだが、本当にアテになるのかねぇ』
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