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2.赤い実は……※
「いつも窓から見下ろすと、美味そうな実を見せつけてくるから食ってやろうと思って、タイミングが合ったからと少し明るいうちに来てみればいねぇし」
美しい見た目から想像できないちょっと乱暴な口調。でもそれさえも初めて聞く透き通るような耳に心地よい声で、僕は感激してしまって全身が震えるようだった。もうほんとどうしようもないな僕は。
というか、僕だけがこっそり見つめていると思っていたのに、憧れの君に認識されていたなんて恥ずかしすぎる。
実を見せつける、なんて思われてたなんて……。
「何年か前はあっちにいたのにいつの間にかあの窓からよく見えるここに居座ってさ。お前食われたくて見上げてたんだろ?」
彼が喉をくくっと鳴らして笑いながら言う言葉を聞いて、どんどん顔がカッカとしてくるのがわかる。さっきから何か喋ろうとしているのに全然声が出なくて……。
恥ずかしくて目を伏せてその場を逃げ出そうとする僕は、あっという間に彼に捕まった。
「今更逃げるな。あの美味そうな赤い実は……ここか?」
僕の顔に彼の手が伸びてきて顎をつかまれ上を向かされ――視線が交わる。
こんなこと……今まで一方的に憧れて見つめ続けてきただけだった彼と目を合わせているなんて、僕はどうしたらいいのかわからないよ。
至近距離で見る彼は窓越しに見上げて見るより断然美しくて……磁器のような滑らかで透き通るような白い肌にプラチナブロンドの長い髪がサラサラとしている。紺碧の瞳は時折不思議な輝きがきらめいてまるで星空のようだ。
吸い込まれそう……僕は目が離せなくてその瞳を見続けていた。
「美味そうだな……もう待ってなくてもいいだろ……」
なにかぽそりと呟いたかと思うと彼の顔が近づいて赤い舌がチロリと見えて、その直後、唇に吸い付かれていた。
「!!」
何が起こっているんだと混乱して逃げようとした僕を彼はより一層強く抱きしめてきた。
見た目の冷たい美しさと口調から少し怖くも思えていたけど、その腕の中は温かくて逃げたいような逃げたくないような。
彼にぬるりと舌を絡ませられればふっと力が抜けてしまう。
「時間がない。逃げるな、食わせろ」
「あ……」
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