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3.会いたい
気付いたら僕は林檎の木の中に戻っていた。
そんな僕の根本に彼が座り込んで、本当の林檎の実をシャクシャクとかじっていた。
「本当は、こんな性急な行為にしようとしてた訳じゃないっての」
「俺はちゃんと実が赤くなるまで待ってただろうが」
「なのに赤くなり始めたかと思ったら、急にぷんぷん香り撒き散らし始めるし自覚を持てっての」
「なんで今日に限ってギリギリまでどっか行ってやがるんだよ」
答えられない僕にブチブチと文句を言い続けている彼。とんでもない美貌の持ち主のくせにやっぱり口は悪いみたいだ。そんなところも格好いいけど。
ていうか、本当に僕のこと前から気がついてたのか。で……僕に会いに来てくれたどころかあんなことまで……。
「またタイミングが合えばあの時間に来る。が、約束はできない」
彼がそう言って僕の幹をサラリと撫でた。それだけで僕は枝をざわりと震わせてしまって、何個もの実を落としそうになった。
「俺の名はルアルだ。覚えとけよ」
そう言って彼は宵の闇に戻って行った。彼は別に動けない訳じゃなかったのか。もしかしたら僕が見上げてもいない時は違うところにいたのかな……。
それにしても、ずっと身体に熱がこもっている。なのに木の姿じゃどうすることもできなくて……。こんなに夜明けを待ち望んだことなんて今まで一度もなかったのに、今の僕は早く朝になってくれとずっと東の空を見ていた。
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