黒の真実

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喉が渇いた。 口が開いていて、中が乾いているのを感じる。まだ眠っていたくて、とても目が開けられない。まぶたの向こう側に強い陽光を感じる。灼熱の世界が向こうに広がっているのが分かる。声は出ない。汗ばんでいる。こめかみから首へと一筋の汗が滴る。シーツが湿っているように感じられるのは、自らの全身が汗に塗れているからだろうと容易に想像できる。気持ちが悪い。不快だ。手をバタバタではないけれど、横たわったままシーツの上をはべらせる。それでも不快だ。汗が滴るのを項にも感じる。重ねた両の足の裏さえ汗ばんでいる。不快だ。もう、何時間もこんなことをしているんだ。誰も起こしに来ないのか。せめて水を注いではくれないのか、この、乾ききった喉を潤してはくれないのか。右手の爪をベッドに食い込ませるようにひっつかんではみるけれど、なにも変わりはしない。首をのけぞらせてはみるけれど、渇きは増すばかりだ。ベッドからはみ出るように、上半身をもたげて床へ向かう。心地良い。頬が触れた床は濡れているようで、冷たくて気持ちいい。深みは感じないが、床の表面が水で覆われているように感じられる。まだ目は開かないけれど、両腕を前方に突き出して立ち上がってみる。ふらりとはするし、滑りやすいようだけれど、なんとか立てた。足の裏が冷たくって気持ちいい。滑ってよろけて、ぶつかったのは壁でなくてドアのようだった。はずみで目は開いたがなにも見当たらない。四方八方向き直って、上を見上げて、下を見下げて見るけれど、なにも見えない。自分の身体を上から下までまさぐってみると、まだ確かに人間の形はしているようだ。全身ずぶ濡れのようには思われる。ベッドがどこにあるのかはもう分からない。どうやら目の前にはドアがあるらしい。だって、腰のあたりの高さにドアノブがあるもの。両手で力任せに、滑るのを抑えながらなんとか、右に廻して左に廻して、力任せにガチャガチャとやってみる。扉が開かないものだから、力任せに蹴飛ばしてみる。その反動で自分が突き飛ばされて、尻もちをついてしまった。ずぶ濡れの床は滑るけれど、なんとか立ち上がって、またぞろ盲滅法にドアに向かって肩から突っ込む。まさにそのとき、扉は開かれたみたいで、部屋を抜け出た感覚を覚える。そしてすぐさま、穴に落ちたようだ。自分の身体が落下していくのを感じる。なにかに突き当たって、でんぐり返しをするように転げて、下へ下へと落ちていく。細い長い洞穴が地底へ続いているようだ。きっとこの目は開いてる。だのになにも見えない。いや、見えていないんじゃない。さっきっから、見えていないんじゃないんだ。ただ、黒なんだ。どうやら自分は黒の世界で目覚めたらしい。なにがどうなっているのか分からないけれど、喉の渇きはすでに消えた。空腹も感じない。ただ、進んでいかなけばならないという使命を感じる。これだけが唯一の真実だ。真っ暗闇の中であっても、進んでいかなければならないんだ!
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