6.ここで君にプロポーズを

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 詳しい人が見れば見分けられるのかもしれないが、クロスボウの使い方を学ぶことを中心に訓練を重ねたせいで、残念ながら私にはあまり見分けがつかなかった。 “いくつかの足跡があることはわかるんだけどなぁ”  明らかに違う形のものやサイズ感が違いそうなものを除き、いくつかの足跡をじっくりと眺める。 「この、明らかに小さいやつはシカじゃないわよね」  まるでチューリップのような形の小さい足跡は、大きさ的にウサギだろう。  可愛いウサギを、コルンに一目惚れしたあの時の思い出に浸りながら追いかけるというのもなんだか絵本のようでロマンチックな気はするが。 “それはコルンへのプロポーズが終わってからだわ”  その時幼い頃の思い出話に花を咲かせながらコルンとふたりで歩いているのか、感傷に浸りながらひとりで歩いているのかはわからない。  後者でないことを切に願う。 「こっちの足跡は……何かしら、この小人が両足で飛んでるみたいなの」  馬の蹄を左右から圧迫したような足跡に首を傾げる。  このよくわからない形の足跡は流石に違うだろう。  なんの動物なのかさっぱり想像できないので、もしかしたら私の知らない獣の可能性もある。 「ただの可能性でも危険は避けるべきよね」  私はその、まるで一対の蹄のような形をした足跡は目的のシカではないと判断して追いかける候補から外した。  そんな私の目に、次に止まった足跡はまるで可愛い猫のような肉球の足跡である。 “この足跡は何かしら”  猫にしては大きく、だが私の手のひらよりかは少しだけ小さい。  それに指のような跡も見える。 「肉球があるからキツネ……? でもキツネにしては大きいのよね」  森に居て、肉球があって、この手のひらサイズの足跡の動物。  肉厚もありそうだからそれなりに体重もあるのだろう。  私は想像力を巡らし必死に考える。が。 「心当たり、ないわねぇ」  猫は好きなんだけど。ちょっとコルンに似ているし。  なんて全然違うことを考えながらそれらの足跡を眺め続ける。    だが正直眺めたところでわからないので、私はその足跡の中から小さすぎずかつ大きすぎないひとつを選んで追いかけることにしたのだった。
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