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「おっ、おい!あっちから漁船が近付いてきてないか?」
「えー?そんなことないっしょ。だってこの方向、海水浴場の方だよ?ま、まぁ立入禁止を破ってここに船で入ってるのはこっちなんだけど」
「そんなことより見てみろって!」
「え…………キャー!?」
「おいおいおいおい!バカだろアイツ!このままじゃぶつかるって!!」
小さい船が急カーブをしようと、音を変える。オレからしたらどっちを狙うかなんてどうでもいいのだが、遅い方にでもしてやろうと思っている。わざわざ速い方を狙って、どっちも逃がすなんてこと、この『シャチ』がすると思うか?
「はあっ……はあっ……!スピードを出せさえすれば、こっちのモンだ……!」
漁船の主は、慌ただしくいろんな操作をしている。
食うか食われるか、生きるか死ぬかの野生動物には『機械』なんて関係の無いことだが、『漁船』ってヤツは嫌いだ。こいつらのせいで毎日のエサが減っている。他のデカい魚が人間に一泡吹かせてやろうと襲いかかっていたのを見たが、結局漁師たちの晩飯に成り果てた。
『人間』という種族に何かをすると、絶対にやり返される。「安全のため」とか言っておきながら、こっち側の安全を脅かしているんだ。ふざけるなと言いたいだろう?でも彼らが理解できる言葉は発することができないし、言っても聞いてくれないだろう。
──なら、事故に見せかけるんだ。
天災、オカルト、不幸な事故──それなら、誰が悪いとか無いだろう?
海は見た目より綺麗じゃないんだ。
いつでも『死』が口を開けて待っている。
ほら、早く来いよ。強欲、傲慢な人間ども。
海で理性を捨てれば、あとは死、のみだ。
自分の欲望を取るか、命を取るか。運が良ければ2つとも。
2つを取れば、もひとつオマケに差し上げよう。
──海の中の、地上より多い住民たちの恨みや悲しみ、呪いをさ。
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