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2. 12歳-静かでいる
お父さんはたぶん、昔からおれのことが苦手だったと思う。おれもお父さんが苦手だった。
おれは小さい頃から、クラスの男子の中では一番背が低かった。お父さんは「気にすることはない。お父さんも子どもの頃は背が低かったんだ」と言った。
でもおれは、自分の背の低さを気にしたことはない。成長期の身長の伸び方には個人差があることも、本で読んで知っていた。お父さんが望むような返事はできなかった。
お父さんは「お前にはわからないだろうが」とよく言った。目を合わさずに。でもおれに「お前はどう思う?」と訊いてきたことはない。
ほんとうは、いろいろなことがわかっていた。
お父さんがおれのことをだれかに紹介するとき、「消極的な子で」とか「あまり自己主張をしない子なんです」と先に言った。そうして相手からは言われないようにしているのも、お父さんに悩みを打ち明けてくるような息子がよかったと思っていることも、わかっていた。
もっと小さかった頃はおれもお父さんにいろいろなことを尋ねた。ほかの人にも尋ねた。学校の先生にも、クラスの人にも。
空はなぜ青いのか、月はなぜ落ちてこないのか、海はどうして青いのか、地球はどうやってできたのか、流れ星はいつ見られるのか。知りたいことはたくさんあった。
最初は答えてくれた人たちも、年齢が上がるにつれておれの質問をわずらわしいと思うようになっていた。お父さんも。
みんな忙しい。テレビやゲーム、インターネット動画、芸能人や女の子のこと。大人は仕事。おれはどれもあんまり好きじゃない。
だから、静かでいることにした。わからないことは、本で調べた。本はおれをわずらわしいと思わないから。
お母さんは、おれをわずらわしいとは思わなかったけど、質問にうまく答えてあげられないのを申し訳なさそうにしていた。お母さんにそんな顔をさせたくなかった。
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