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1. 12歳-出会い
12歳のとき、学校から帰ると家の中に知らない男の人が立っていた。
じっと見上げると、その人もおれを見つめ返してきた。黙って。
ほかの大人みたいに、気まずそうに目をそらすこともせず、子どもと同じ目線までしゃがんで優しく声をかけてくることもなく。
それが始まり。
「あなたたち、どうして見つめあっているの」
おれとその人を見て、お母さんが楽しそうに笑った。「猫と犬みたいね」
お母さんの弟だと、頼んだ和菓子を買って届けにきたのだと、お母さんが話してくれた。
お父さんはその人があんまり好きじゃないみたいだった。
口数が少ないとか愛想がないとか、他人への気遣いが足りないとか、無表情でなにを考えているのかわからないとか、大学を出てもあんなんじゃ社会ではやっていけないとか、いろいろ言う。
それでも、その人の前ではお父さんはにこやかな顔をしていた。その人は、他人からどう見られているか気にもとめない顔をしていた。他人の目を気にするお父さんはその人よりも大人であることを見せたいらしかった。背がお父さんより高いことも、気にしていた。
でもたぶん、好きじゃない一番の理由はお母さんのことを「咲子」と名前で呼び捨てにするから。
お母さんは年齢よりも若く見られるから、その人と並んで名前を呼び合っている様子が恋人同士に見えた。
おれは気にならなかった。その人が6歳のときにはもう呼び捨てにしていたらしいから、二人にとっては今さらだろうと思った。
お母さんとその人は12歳、年が離れていた。おれとその人は9歳離れていた。
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