神様だけが知っている

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「神様ーー!あのね、泣かなかったの!僕、偉いでしょ?」 そうかそうか、泣かなかったのは偉かったな。けど、何で泣きそうになったんだ? 報告する時は、いつ、どこで、誰が、何を、どうした!!5W1H!! そう言いたい所だが、相手はまだ6歳。 「陽向(ヒナタ)、神様に報告終わった?」 「うん!終わったよ!」 幼稚園からの帰りにこの神社を見つけたらしく、それ以来毎日来ては推理が必要な報告をされている。 母親も最初は一緒に参拝していたが、今は見守るだけとなっていた。 まぁ、まだ神社が珍しいだけだろ。その内今までの奴らと同じように飽きて来なくなる……。 ここは年に2回町内行事で複数の人が清掃に来る位で、そんなに山深くは無いが、神社に通じる道は手入れをされなくなった為、伸び放題の雑草に道幅が狭くなり、石の階段はヒビ割れその間から雑草が生えたり崩れている所もあり、散歩道にしては険しすぎて人も来なくなった。 町内行事で行われる清掃に来ている人達も高齢者ばかりとなり、今年が最後だろうといつも思っている。 「でね、今日は先生の背中にコッソリシールを貼ったんだ。いつ見つかるかヒヤヒヤしたよ!なかなか面白い遊びだろ?」 いつ飽きるのかなと思っていたが、話し方もしっかりしてきた小学生3年生になってもまだ通っている。 最初は一緒に下校している子どもと来たりしていたが、珍しい物が無いからだろう、陽向以外は来なくなった。 昔は公園よりもここの方が木で遊んだり虫で遊んだり出来た為、子どもが寄り付いていたものだか、今は自然よりも綺麗で安全な公園で遊ぶ方が良いのだろう。 学校帰りだから寄れてるだけで、その内、友達との約束優先で寄り道せず帰ったり、塾に行き始めたりで来なくなるだろう。 寂しい事に、賭けても良いのに、賭けをしようにも相手が居ないのでは勝負にならない。 中学生となり、部活で遅くなる時もあるが、自転車で通いながら陽向は、変わらず神社に通っていた。 神とは信仰されないと力を失うもので、年2回の町内行事でかろうじて繋ぎ止められていた状態だった為、いつ消滅してもおかしくない状況だった。 だが、たった1人の存在が自分を変えた。 たった1人だけなのに、毎日何年も何年も通い続けてくれて結果、力が溜まっているのが分かる。 「神様!俺、希望の高校受かったよ!毎日お願いした成果あったよ!ありがとう!!」 僕から俺に言い方が変わり、声もすっかり低くなった陽向が、嬉しそうに今日も報告に来た。 その願いは実力だよと教えてあげたいが、まだその時期では無い。 まだ自分は陽向を信じ切れていない。 高校になると途端に来なくなるのではと思っている。 陽向が高校生になった時には……。 その時を待っていた。 「神様、見て!これが高校の制服だよ!中学とあまり変わらないけど、見て!ネクタイするの!カッコいいでしょ!!」 陽向は変わらずやって来た。 これは応えなければいけないな。 陽向が神社を見つけた時は影を形どる事も出来なかったが、今は人の形にまでなれている。 清掃の時以外開く事がない為、錆びついて重くなった扉を重い音をさせながら開く。 「え……?人が居たの?!」 陽向が目を丸くして立ち尽くしていた。 こちらも声は聞いていても容姿は初めてな為、思ったよりも細く、可愛らしい姿に見入ってしまった。 「初めましては不思議な感じだが、初めましてだな」 「あ、え?!あ、初めまして!まさかここで人に会うとは思わなくて……!いや、でも嬉しい!いつも1人だけだから……」 「知ってる」 苦笑して答える。 「ここの神様がいつも通ってくれるお礼に願いを一つだけ叶えると言ってるよ」 「え?!神様?!?!」 これ以上見開けない位に目を開いて陽向は言う。 「俺のしょうもない話ちゃんと聞いてくれてたのかなぁ。願い事かぁ……」 言って、チラリとこちらを見る。 「俺、ここで誰かと一緒に過ごしたかったんだ。君がまたここに来てくれるなら願いは叶うから別にお願いする事はないなぁ」 「何でこんな所にこだわってるんだ?何も無いし、面白くないだろ。友達連れて来てもすぐ来なくなっただろ?」 「そう、友達連れて来てたんだけど、すぐ行かないって言うんだよな。って何で知ってるの?」 「そんなの誰だって分かるさ。ずっと長く住んでる人でさえ、清掃行事の時しか来てないんだからさ」 「言われてみるとそうか……。今度清掃行事参加しようかな。俺はここの空気好きだよ。背の高い木に囲まれてるけど、暗くなくて、降り注ぐ光が神々しいと言うか、ひっそりしてるけど、隠れ家的な感じで、あったかくて……。ここを見つけれたのは、運命の糸に導かれたんじゃないかと思うんだ。霊感は無いと思うけど、何か居る!て思ったんだよね。だから、神様って言っては、いろんな話を独り言の様に話して帰ってた」 そうか、長い年月でと思っていたが、それにしては力が溜まるのが早い気がしてたが、陽向は姿が見えないが『そこに居る』と思って話してくれてたんだな。 だから、ここまで形を作る事が出来たのか。 「ありがとう」 「へ?何が?」 「ここに来てくれてありがとう。沢山話をしてくれてありがとう」 もっと感謝の言葉を伝えたいのだが、上手くまとまらない。 「え、何かよく分からないけど、どうも……?」 戸惑いながら陽向は言うと 「あ、もうこんな時間!また明日も会えたら会おうな!!」 時計を見て慌ててそう言うと、挨拶もそこそこに帰って行った。 騒々しいヤツだと思いつつ、明日は何時に来るのだとブツブツ言いながら、いつもこれが最後かもしれない。その内、来なくなるだろうと期待しない様にしていたものが、明日を楽しみに待っている自分に苦笑する。 そして、翌日の夕方、いつもの様に陽向はやってきた。 先に出て待っててもよかったのだが、楽しみにしているのがバレるのが恥ずかしく、いつも扉の中に居るが、今日は外で陽向の死角に隠れて出ていくタイミングを見てみる事にする。 「神様、昨日ここで人に会いました。願いを叶えてくれると言ってたみたいですが、俺、あの人とまた会いたいです。実は……一目惚れしました!俺、今度清掃行事に参加します!なので、あの人と仲良くなりたいです!宜しくお願いします!」 普段敬語は使わないのに、今回は敬語で一気に話して来た。 思わぬ告白に顔が熱くなる。 賽銭箱の横の階段に座り、水筒を手に取りお茶を飲む陽向。 「こんにちは」 顔の熱は引いただろうか。 「こ、こんにちは!!」 水筒を落としそうな勢いで挨拶を返す陽向。 その姿を眩しく見てしまう。 陽向の願い事はまた叶ったと思うだろうか。 陽向の神様への願い事は全て陽向自身が叶えたものであり、神様は何もしていなかったなど、それは神様だけが知っている事なのだ。
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