失われた王女

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 やがてその場に、ひかるの嗚咽が儚く響きはじめる。涙を拭いながらも止めることができなかった。  ゼノはひかるの頬に手を当て、涙の跡をゆっくりと撫でた。 「大丈夫。あなたは一人ではないから」  その声を聞いて、ひかるは前を向く。 「貴方達はいったい誰なの?」 「必ず思い出します。ルシルは僕たちのことをよく知っているのだから。どうか警戒しないでください」  改まって謙遜され戸惑いながらも、ひかるは自分が心から敬愛されているように思えてならない。そしてどこか懐かしさににた安心感を覚えた。  だがやはり、どこかで会った記憶はない。剣を持った黒い青年についても同様に。混乱は最高潮に達し、堰を切ったように涙が溢れる。  ゼノは大切なものを抱きしめるように、ひかるの小さな頭を胸の中へ引き寄せた。 「両陛下のことは本当に残念でなりません。フィルもひどく心配してる。約束したんだ。必ず連れて戻ると」  ひかるは不思議な感覚を味わっていた。怯えていながら同時に安全だと感じられる、母のような、父のような、そうこの感覚は家族に似たものである。   ひょっとしたら、自分は本当にこの人と同じ種族なのではないか......。 「私の失くした記憶をあなたの魔法でどうにかできないの?」 「残念だけど記憶までは。でもあちらへ戻れば、魔術協会の方々に相談もできると思う。今はひとまず、ここを離れようか」  唐突に切り出すと、ゼノはひかるの手を取って立ち上がらせた。
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