失われた王女

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「でも、あの人は?」  そういえば、あの黒服の青年のことはすっかり忘れていた。ビルの下のどこかで剣を抜いているのかと想像すると、ひかるは少し不安になった。 「ディーはとうに片をつけた。では行こう姫」  ゼノはひかるに向き合うと、両手を器のように構えた。すぐに水晶玉のような球体が現れ、続いて足元に魔法円が現れた。 「目を閉じて。帰りたい場所を思い浮かべて」 「私の家ってこと?」  ゼノは頷いた。  半信半疑で瞼を閉じ、小さな戸建ての二階にある自室を頭に浮かべてみる。その直後、下から一陣の突風が吹き、彼女の前髪を持ち上げた。目を開けたが、ゼノの姿はどこにもない。周りの景色はねじれ、歪み、次第に見慣れた風景へと変わってゆく。すべてが一瞬の出来事で、戸惑っているうちに自分はいつもの部屋に立っていたのだった。 「大事件……本当にできちゃった」  ふと、つま先に目をやると、スニーカーのままだったので慌てて脱いだ。そして無意識にゼノを呼ぶ。 「ゼノ、ゼノ?」 『ルシルを近くで見守っているよ。改めて姿を変えて会いに行くから、話の続きはまたにしよう。今日は休んで』  それきり声が聞こえることはなかった。  リビングに行くと、カレー皿とサラダボウルにラップがかけられ、キッチンにひっそり置かれてあった。時刻は午後七時五八分。ひかるの息がハッと止まった。 「あっ、牛乳……」
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