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部屋に入れてあげると、ゼノはパタパタと羽根を動かしデスクの上に乗った。
「姫の部屋にそっくりだ」
「ルシルも紫が好きなのね」
「白と紫の組み合わせは王族だけが身につけることができる。色は地位と階級を象徴するものだ」
それを聞いてひかるは夢での一場面を思い出す。同時にふと疑問が湧いた。
「ゼノ、黒い服には何か意味がある?」
するとゼノは笑いながら翼を軽くばたつかせた。鳥が笑うのを初めて見たので、ひかるは一瞬目が点になる。
「黒服は『守護官』という称号を付与された剣士だ」
「守護官?」
「王家直属の護衛だよ」
守護官は通過儀礼で称号を授けられ、通称「黒服」とも呼ばれる。一般の護衛とは別格の存在らしい。つまりあの青年もその一人だったわけだ。
ひかるは通学リュックを床に置き、カーディガンを脱いだ。いつもの習慣で制服も脱ぎそうになったがリボンだけを外す。
「またルシルの夢を見たの。大勢の人の前で舞を踊ってた。何かのお祭りみたいだったよ」
「それは白金縷の舞というアルナリエの伝統舞踊だ。夢で見た祭はきっと、『王女の神事』だね」
「白金縷って何?」
「白金の糸だよ。アルナリエは白金が大量に採れる財力豊かな国だ。魔法の国としても有名で、魔術師養成学校がある。他国から学びにくる者も多いんだ」
話に耳を傾けながら、ひかるは椅子に腰掛ける。羽根を折りたたんで机上に座るゼノに向き合った。彼はアルナリエについて大まかに説明をしていく。
国家体制は、王族から選出される王位継承制度をとっており、グレン国王とラルマ・ティエリ王妃には王子と王女が一人ずついるとのことだった。ゼノは王宮に仕えている魔術師で、ルシルの教育係の一人でもあった。王子とは年齢が近く旧知の間柄らしい。
フィルバート・メヴィネル・アルナリエ——ルシルの兄である彼は、一族の後継者として王位を継いだ。事実上、現在のアルナリエ王国の国王である。
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