ルシルのオトラ

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「ちょっと待って。前の国王はどうしたの?」  質問すると、ゼノはすぐに返答しなかった。やや長い沈黙が、話の先行きに暗影を投じているとひかるは察する。 「教えて。昨日、私に『両陛下のことは残念だ』って言ったよね? ルシルの両親に何があったの?」 「あの動乱を思い出すのは負担になるに違いないけど、記憶を取り戻さなければならないからね……」   ゼノは静かに語りを開き始めた。ひかるは透き通ったエメラルドの眼をじっと見据える。    アルナリエ王国では、伝統的に二十九日周期で「ルナノーヴァ」と称する祝日がある。白金の豊作にあやかり、国民には所得に応じて銀貨が分配され、王室では宴が催されていた。  だが、半年前から現在に至るまで、ルナノーヴァの祝日は途絶えている。王と王妃の喪に服し、行方不明になった王女の無事を祈るためだ。  ——半年前、祝宴の最中、国王王妃が殺害された。蜂起したのは内政を掌握しようとする逆賊たちである。  剣に長けたフィル王子は兵を率いて王女を守り、反乱は沈静化した。しかし、気がふれてしまった王女は、幼少期に封印された「オトラ」と呼ばれる力に目覚めてしまう。  オトラの力を持つ者は、高次の身体能力を発揮し、五感を超えた感知能力を使えるという。  この神秘的な力を持って生まれるかどうかは運次第だとゼノは言う。そして古往今来、オトラ能力者は政治的、軍事的に活躍してきた。軍閥の指揮官や高名な魔術師は、いずれもオトラを授かった権力者ばかりである。  つまるところ、王族の飾り物である姫君にふさわしくない特殊能力だといえる。
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