ルシルのオトラ

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『姫にオトラの兆しがあるとはまことか?』  王に問われた宮廷魔術師は、生後間もないルシルを気の毒そうな表情で見つめていた。 『恐れながら陛下に申し上げます。王女様はオトラをお持ちです。それもまた、甚だしく強大な波動を感じます』 『ルシェールのオトラをその魂に封印せよ。今すぐに』    亡きグレン王はルシルのオトラを公に隠した。最愛の娘に魔法や戦いは不要というのが父の心境だったのである。  姫にオトラがあるとわかれば、隣国の刺客に狙われるだろう。 王子や将軍なら抗戦できるだろうが、庭園で枯れ葉を拾い、可哀想だと泣くほど繊細な娘なので心配は尽きない。王は掌中の珠とばかりに寵愛する姫のために護衛隊を召集した。それはルシルが十歳頃のことである。  ところがある日、小騒ぎが起こった。護衛兵たちは、「宮殿の奥で安住する姫のために武勇を尽くすのは割に合わない」と王に諫言したのである。抗議を穏便に解決すべく、王は思わぬ策を講じた。   『剣術に秀でた者を一人選び、王女の守護を生涯唯一の職務とさせる——』    そして、ディー・レイヴンズワースという若い剣士に「王女の守護官」が授与されることになった。  王室の伝統として、王妃と王女には、警護の者はいても黒服の守護官はつかない。そのためこれは異例のことだった。
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