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「嘘でしょ、秋吉先輩だよ!?」
昼休みの晴天、校舎の中庭で栞は一驚を喫した。ひかるはシッと人差し指を立てる。生徒はまばらで幸いだったが、他聞にはばかるので声を小さくする。
「だって話したこと一度もないんだよ。全然知らない人なのに付き合うとかできないでしょ」
二年生の秋吉とは、昨日の放課後に空き教室で会話したのが初めてである。交際を持ちかけられたひかるは、ぽかんとしてしまい、こう返事をした。
——私は先輩と話したことがないのに、どうして好きだって言えるんですか?
間髪入れずに「先輩は私のどこが好きなんですか?」と迫られた秋吉は閉口した。
「まあ、『見た目だ』とは言えないわね」
代弁した栞の口元が引きつった。
秋吉はサッカー部のエースで、派手すぎず勉強もでき女子の耳目を集めている。
「もったいない。ひかるは美人の無駄遣いなんだよ。中学の時も彼氏いなかったし、なんでよ?」
素朴に疑問という顔で、栞は購買でゲットしてきた惣菜パンを口に詰め込んだ。
「さあ、なんでだろう?」
あっけらかんと親友に言い返し、ひかるはおにぎりのラップを剥がす。
「可愛いい顔して笑ってる場合じゃないよ」
中学以来の友人である栞は、早く彼氏を作れ! としきりに鼓舞してくる。当の本人は恋に憧れはあるものの、実際にときめくという感覚がわからず、なかなか一線を越えられないでいた。
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