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孤高の剣士
城壁に囲まれたカオンダット宮殿は広大である。防衛機能を担う要塞には「グラジオット」と呼ばれる円形の道場があり、王子を含む戦士たちが日々研鑽を積んでいた。ドーム状の天井と花模様の柱の一本一本はすべて白金製だ。剣同士が交わるたびに、キーンという澄んだ音がホールに反響した。
グラジオット広場には十七歳前後の男子が三名いる。フィル王子と剣士ディーが互いに鋭い剣先を鳴らしていた。彼らの背後では、ゼノが大理石の階段部分に座っている。柔和な笑みを浮かべ、緑色の双眸で手合わせを見物していた。
王子と剣士の一進一退。ピリピリとした緊張感が漂う一方で、互いの技量を惜しげもなく披露し合う姿には清々しさすら感じられる。
剣術の型に忠実な王子の体捌きとは対照的に、黒衣の青年は非常に独創的だった。剣を持つ手は力まず、剣を回転させ、ひらりと攻撃をかわすさまは舞踊のように圧巻である。
青年の一手で、王子の剣は弾き飛ばされ、音を立てて床に落ちた。すかさず拾い上げようと手を伸ばし、一歩踏み出し、急停止する。王子の喉元には剣先が突きつけられていた。
「それまで」と静観していたゼノは手を叩く。
「ディーの三十二勝目。今日勝てば追いつけたのに、惜しいね、フィル」
ゼノはにっこり笑って勝負の結果を告げる。
ディーは剣を下ろし、フィルの剣を拾った。
「また強くなったんじゃないか? それに最後の技は何だったんだ。俺にも教えてくれ」
フィルはディーから剣を受け取りながら言った。王族の証である銀髪は純度の高い白さで、瞳は深い藍色、妹に劣らぬ美形である。
「殿下こそ、足捌きが読めなかった」
「殿下はよせ。三人のときは」
口角を軽く上げてフィルは剣を鞘に納めた。ゼノが自然な所作でその剣を受け取る。
「それで、ルシルはそこで何をしている?」
フィルはよく通る声で言った。しかし周りには三人しかいない。
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