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ところが、一本の白い柱の裏から、少女が頭を覗かせるようにして現れた。
「どうやって護衛の目をかいくぐってきた? むしろ興味がある」
「……フィル兄様、気がついていたの?」
艶やかな白金の髪の上半分を束ね、下半分を下ろしている。首元が隠れる露出の少ないワンピースを着ており、長いスカートはすみれ色。見つかったルシルは三人に近寄った。
「柱にへばりついて、視線がほとばしっていたよ、姫」
ゼノは顎に手を当て、愉しそうに目を細める。
「ディーに会いたい気持ちはわかるが、マヤが探し回ってるんじゃないか?」
あきれたようにフィルは腕を組んだ。マヤは侍女の一人で若い娘だ。
「『会いたい』って、何言ってるの。私は、べつに……」
尻すぼみになったルシルは顔を紅潮させる。
「べつに、なんだ?」
フィルの頬がいたずらっぽく緩む。しかし笑みはすぐに消え、低い声でほのめかした。
「護衛の者を煩わせすぎると、父上が気を揉む。自分の立場をわきまえねば」
「……はい、ごめんなさい。でもなんだか、あの人達は怖くて」
「怖い、何が?」
「守られているというより、監視されているような気がするの。『姫様の護衛は腕が鈍くなる』って話しているのを聞いてしまったし」
「愚かな、職務怠慢だ。鍛錬を怠らなければ鈍ることはない」
万が一の時に姫を守れなければ立つ瀬がない。フィルは冷静さを保ちつつ、嫌悪感を露わにした。
「悪く思わないで兄様。彼らの不満はもっともです。私のせいで出世が遠のいたのだから……」
ルシルは俯いてしまった。姫の胸中を推し量るも、無言のまま、王子は人差し指でこめかみを掻く。ゼノは苦笑を浮かべた。
するとディーは、下を向いていたルシルに話しかけた。
「稽古の調子はどうですか? もうすぐ王女の神事ですね。白金縷の舞を披露するのでしょう?」
それを聞いたルシルは顔を上げ、「はい!」と瞳を輝かす。
「ディーの剣捌きは舞みたいと思ったの。優雅で力みがなくて、素晴らしいの。それでずっと見ていたんです」
「過分に褒めすぎです」
彼は首を横に振った。だが「ありがとうございます姫」と付け加える。
「ああ、姫じゃなくてルシルだってば!」
突然、幼さを露呈して声を上げたルシルだったがすぐに唇をくっつけた。あどけない彼女を見た三人は、目配せをして破顔する。
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