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奇しくも、他国からの使者との謁見に出向く直前の国王は、遠くの楼閣から四人を見下ろしていた。
「何故、ルシェールは護衛もつけずにグラジオットにいる?」
不興顔になった王は、やや怒気をはらんでいる。
「王女様はとても好奇心に富むお方だそうで。陛下、お急ぎください」
秘書官は恭しく念を押した。
「まあ、よい。じき姫の警護にこだわる必要もなくなる」
王は鋭く剣士に眼光を送り、厳格に眉をひそめた。
◇
「ルシル……ルシル」
うわの空のひかるにゼノは声をかけた。
「どうしたの?」
「あ、うん。今ちょっと」
しばしの間、まるで時が止まったかのようにひかるはアルナリエの情景を見ていた。ゼノに話すべきか迷ったが、続きが聞きたかったのでいったん後回しにする。
だが正直なところ、ひかるは続きを知ることに尻込みした。人工オトラを移植するという猟奇的ともとれるグレン王の発想と、今しがた脳裏に浮かんだ不穏な場面はどこか繋がったような気がしたからだ。
ゼノは話を続けた。
フィル王子の側近になったディーは、しだいにルシル王女とも親しくなる。刀剣を恐れる姫が、むしろ自分から近づいていくほどだった。
アルナリエは一貫して国防姿勢を標榜し、他国に平和を訴え、戦争を望んでいない。それでもときとして、近隣諸国からいわれなき理由で攻撃を受けることがあった。
戦火がくすぶるたびに、レイヴンズワースという戦士の手腕がグレン王の耳に届く。国に忠実で、尊大さや傲慢さは微塵もない。姫が警戒心を抱くことのない勇敢な若者。彼こそが適任と見た王はディーを拘束した。
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