孤高の剣士

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 数人の魔術師が密命を受け、国で禁じられている黒魔術を用いてオトラの生成に成功する。しかし、それをディーの体に注入したところで心臓が止まってしまった。施術した魔術師曰く、肉体がオトラの威力に耐えられず力尽きたものとみられた。  試みは失敗、選ばれし剣士は非業の死を遂げた。結論が出かかったその時、止まっていた鼓動が再開し彼は息を吹き返したのである。 (一度死んで生き返ったってこと?)  ひかるは憶測を巡らせた。目覚めたディーについてゼノは次のように語った。 「魔術師や侍医がディーの体を調べた結果、彼が強力なオトラを獲得したことは疑いようがなかった。傷を負うと、血液は瞬時に結晶化して数秒で傷口を塞ぐんだ。栄養摂取も睡眠もまったく必要なかった。その肉体はいわば不老不死に近い。さらに瞬発力と跳躍力も格段に向上していた。もうそれまでの彼ではなくなっていたんだ。ディーの体はモノのように扱われ、くまなく探られた。彼は何カ月も拘束状態で監視され、魔獣との戦いを強いられ、故意に深手を負わされたんだ……」  話を聞いたひかるは唇を噛み、手のひらを強く握った。王と側近たちがディーにしたことは解せない。人工的にオトラを作り、生きている人間に移植する技術があったとしても、それが可能という事実と、許されるかどうかは別問題だ。しかし、この憎悪を誰に向けたらいいのか、ひかるにはわからなかった。 「ルシル、大丈夫?」  青筋を立てたような顔をしたひかるにゼノが声をかける。 「……平気。それでどうなったの?」  ひかるは声を落としてゼノに話の続きを促した。
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