孤高の剣士

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 急転直下、歓喜した王は超人的な戦士を姫につけ、護衛隊を解散させた。元の護衛らは、人手不足の国防のために役職を移動したのである。  天才的な技量で名を馳せていた黒髪の青年剣士は、王子の指揮する軍から除籍され、前線から姿を消した。残りの余生、たった一人で王女に仕える。ディーは片時もルシルのそばを離れることを許されず、白金の姫の背後にいる黒服の彼は「王女の影」の異名をとった。そこにはもちろん苦い皮肉がこもっている。  グレン王が何を思っていたのか、心中察するにはあまりある。ただ、次第にルシルは笑わなくなり、自虐的な文言を繰り返すようになった。食事も喉を通らず、踊りへの情熱も衰えていった。 「当時ルシルは十五歳を祝う『王女の神事』を終えたばかりだった。陛下とはディーの一件で仲たがいしてしまって。和解しないまま一年が経とうとしていた時、ルナノーヴァの宴で陛下は暗殺された」  ゼノは淡々と語った。ひかるは前のめりになり、思わず白鳥を両手で捕まえた。がっ、とゼノは喉を鳴らす。 「あっ、ごめん。つい……」  すぐに手を離してやったが、ひかるは拳を握った。 「目の前で両親を殺された。そんな記憶が自分の中にあると思うと」  さっきのように、突然その光景が脳裏によみがえるかもしれない。あるいは凄惨な場面を夢で見るかもしれない。今から覚悟せねばと身構えた。  するとゼノは机上に座ったまま、ひかるを見上げて言う。 「ルシルも狙われたんだ。当然、ディーが守った。でも、彼の背後であなたはオトラを目覚めさせた。真っ白な強い光に包まれて姿を消した」  そして王女は別世界に飛び、ひかるとなってこの町に現れたのである——今度こそ、物語の幕は下りた。
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