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ひかるはおもむろに紙とペンを取り、出来事の時系列を整理しようとした。
「舞を踊った王女の神事が十五歳だったとして、その一年後、ルナノーヴァの宴で反乱が起きた。ルシルは行方不明になって、永原ひかるとしてこの世界に生まれた……あれ?」
ここに至り、ひかるは不可解な点に気づいた。
「ねえ、ゼノ、ルシルが消えたのは半年前でしょう? でも私、持橋町で十六年間暮らしてきた。物心ついたときから記憶があるんだよ。おかしくない?」
「これは僕の仮説だけど、半年前にこの世界へ飛ばされたルシルの魂が、ここで生きていくために自分と同じ年頃の体と十六年分の記憶を作り出したんだろう。それが永原ひかるという存在だ。でもあなたは、自分がルシルであるという記憶は失っている。だから混乱しているのだと思う」
女子高生の肉体と十六歳の架空の記憶を創造するという離れ業をやってのけたのも、ひとえにオトラの力だとゼノは断言する。
「てことは、アルナリエに行くと私の時間は、十六年分と半年分巻き戻されるってことじゃん」
「ひかるじゃない、ルシルね!」
ゼノは抜け目がない。「わかったから」と、ひかるは羽根を広げんとする彼を食い止めた。
「でもゼノの言う通りなら、私は周りの人たちを巻き込んでしまったことになる」
「だからこそアルナリエへ戻るべきだ。そうすることで、永原ひかるに関わった者たちの人生をあるべき状態に正さなければ」
ゼノは控えめに、かつ戒めるように言った。
ひかるは昨夜のように拒絶することができない。なんだったら、自分は本当に別の世界から来たのだという感覚が強くなっている。
しかしどうすればルシルとしての自我を取り戻せるのか、皆目見当がつかなかった。ゼノから間接的に話を聞くことは、自分の記録を知ることでしかない。それは、記憶を取り戻しているのとは違う気がする。
「ねえ、ゼノ」
ひかるは、シャーペンシルを鳥のくちばしで面白そうに転がしているゼノに声をかけた。
「あの人は、ルシルのことどう思ってるの?」
「あの人って?」
「ディー」
「どう思ってる、というのは?」
「好きか嫌いか、という基準で」
率直な答えを求めるひかるに、ゼノは「信じられないよ……」と嘆息を漏らす。ひかるは小首をひねった。
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