ファーストキス

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ファーストキス

 白金の大広間では贅を尽くした夜宴が開かれていた。床から天井まで白く光沢を放ち、細部に渡って金銀の装飾があしらわれた壮観な空間は、王室にとって象徴的なものといえる。  音域の異なる弦楽器がハーモニーを奏で、豪華な食事が客人をもてなす。優雅なひとときの中、浮き足立つ侍女が遠慮がちに駆け回っていた。 「ゼノ様、ゼノ様!」  魔術師の青年は丈の長い正装に身を包み、胸元には一族の紋章があった。 「姫様を見かけませんでしたか?」  マヤは小声で、だが息を荒げて尋ねた。 「え、ルシルがどうかしたの?」 「どこにもいらっしゃらないのです。ご挨拶回りが終わって目を離した隙に」 「はは、なるほど」  どこにいるかわからないけど、誰といるか検討はつく、とゼノは苦笑する。 「僕も探してみるよ。護衛が騒ぎ出したら面倒だからね。でも少しだけ姫の好きにさせてあげたい。だって今夜は……」  ——王女の神事の夜。  王家の血筋が生まれた日は祝日。白昼、王女は白金縷の舞で人々を魅了した。宵から町中では市民祭り、宮殿では晩餐会が催される。ところが、主役の王女が宴席からいなくなっていた。
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