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カオンダット宮殿の北塔は、華やかさとはかけ離れた殺風景な場所だった。
暗澹とした塔の内側は段差があり、座って星空を仰ぐことができる。
風のない静かな夜。闇に溶け込むように、黒髪黒服の青年が一人そこにいた。大広間の方角からは楽器の調べが聴こえてくる。
ディーは座り込み、膝に手を置いてぼんやりと夜空を見上げていた。
ふと、何かの存在を察知し、高台の入り口を鋭く睨みつける。手元の剣に手を伸ばしたが、近づいてくる足音の種類を聞き分けたかのように警戒心を解いた。
「やっと着いた!」
ディーの視線の先に紺色のマントを羽織った姫がいた。外套の下からロングドレスがちらりと見える。
二人はお互いの目が合った。ルシルは面を輝かせ、ディーはそんな彼女の笑みにつられたようにほころんだ。
すっと立ち上がったディーはルシルに歩み寄ろうとする。だが、先に彼女が素早く寄ってくると、塔の段差に乗り出して「わあ、町の光がきれい」と喜々とした。
「気をつけて」
ディーはルシルに触れず、逡巡しながら一言発した。
「町では祭りが開かれているんだって。どんなだろう。きっと夜宴よりずっと楽しいのよ。演舞場はどの辺りかな。あんな遠くまで行って踊ったなんて信じられない」
足元が危険だと促しても、ルシルの耳にはちっとも届いていないようだ。ディーは頬を緩めた。
「今夜はあなたを祝う夜です。おめでとうございます、ルシェール王女」
「ありがとうございます。兄様にもお礼を言ってきました。今夜はディーを自由にしてくれたから」
ルシルは北塔へ来るまでのことを淀みなくしゃべった。数十の祝辞と山のような贈り物をもらったと。
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